「秋山真之」語録集

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海軍兵学校編

試験は戦いと同じだ。戦いには戦術が要る。
戦術は道徳から開放されたものであり、卑怯もなにもない

真之はあまり勉強している気配がないのに、いつも海軍兵学校では首席であった。 要は試験問題の「山かけの名人」であった。過去の5年間の問題集を集め、教官が必要な問題をくりかえすという「癖」をまず見抜く。あわせて平素から教官の講義態度(顔つきや説明ぶり)を注意深くみれば、自ずとどの問題がでるかが見抜けたという。

その行為を「卑怯である」と批判された時に返した言葉。

人間の頭に上下などはない。要点をつかむという能力と、不要不急のものはきりすてるという大胆さだけが問題だ。従って物事ができる、できぬというのは頭ではなく、性格だ。要は物事の要点がなにかをつかむことが大事であり、要点をつかむには過去のあらゆる型を調べる。要点をつかむという能力と、それに集中して不要不急のものは、思い切って切り捨てるということが秋山流の「秘訣」である。

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アメリカ留学編

明晰な目的樹立、そしてくるいない実施方法、そこまでのことは頭脳が考える。しかしそれを水火のなかで実施するのは頭脳ではない。
性格である。 平素、そういう性格をつくらねばならない。

アメリカ留学が決まった真之は、竹馬の友・正岡子規に当分のわかれを告げるべく訪ねようとするが、道中にてどうも気がすすまず何度も足をとめる。

重い病のために臥ている子規と比べて、自分は達者でしかもアメリカへ留学する。子規の気持ちを考えれば、ましてや子規の家族の気持ちを考えると、どうしても足どりが重くなってしまう。しかし戦術家たらんとするものが実施を決心した以上、それについてためらってはならない。とりわけ苛烈で複雑な戦場下にあっては、ためらうこと多くなることは必至。「平素よりそういう性格をつくらねばならない」真之はそう自分を諌め子規宅へむかう。

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戦略戦術を研究しようとすれば海軍大学校におけるわずか数ヶ月の課程で事足るものではない。かならず古今海陸の戦史をあさり、その勝敗のよってきたるところを見きわめ、さらには欧米所大家の名論卓説を味読してその要領をつかみ、もって自家独特の本領を養うを要す

ニューポートの海軍大学校の入校を断られた真之は、戦術家として名高かったマハン大佐の教授を受けることにする。

その時のマハン大佐の助言として

  1. 過去の戦史から実例をひきだして徹底的に調べる。戦いの原理にいまもむかしもない。
  2. 陸と海の区別すらない。陸戦を調べることによって海戦の原理もわかる
  3. 陸軍の兵書のすぐれたものはことごとく読むことである
  4. その他、雑多の記録も読む必要がある

以上の研究方法を教わり、さらに、「それから得た知識を分解し、自分で編成しなおし、自分で自分なりの原則原理をうちたてること。自分でたてた原理原則のみが応用のきくものであり、他人から学ぶだけではつまりません」と教わる。「おれの考えとよく似ている」と共感した真之はマハンの教えどおりに実行する。

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「天剣漫録」

秋山真之がその折々の所感を記した30ヶ条の語録。
「良将になる心構えはどんなものと考えてよいのか」を自問自答しています。

  1. 細心焦慮は計畫の要能にして、虚心平気は実施の原力也。
  2. 敗けぬ気と油断せざる心ある人は、無識なりとも用兵家たるを得。
  3. 大抵の人は、妻子を持つと共に片足を棺おけに衝込みて半死し、進取の気象衰へ退歩を治む。
  4. 金の経済を知る人は多し。 時の経済を知る人は稀なり。
  5. 手は上手なりとも、力足らぬときは敗る。 戦術巧妙なりとも、兵力少なければ勝つ能はず。
  6. 一身一家一郷を愛するものは悟道足らず。 世界宇宙等を愛するものは悟道過ぎたり。
    軍人は満腔の愛情を君国に捧げ、上下過不及なきを要す。
  7. 本年の海軍年鑑を見るに、吾国海軍も幕の内に入れり。 精励息まざれば、大関にも横綱にもなるならん。 勉強せざれば、又三段目に下がらざるべからず。
  8. ネルソンは戦術よりも愛国心に富みたるを知るべし
  9. 人生の万事、虚々実々、臨機応変たるを要す。 虚実機変に適当して、始めてその事成る。
  10. 吾人の一生は帝国の一生に比すれば、万分の一にも足らずと雖も、吾人一生の安を偸めば、帝国の一生危し。
  11. 成敗は天にありと雖、人事を尽さずして、天、天と云うこと勿れ。
  12. 敗くるも目的を達することあり。 勝つも目的を達せざることあり。 真正の勝利は目的の達不達に存す。
  13. 平時常に智を磨きて天蔵を発き置くにあらざれば、事に臨みて成敗を天に委せざるべからず。
  14. 苦きときの神頼みは、元来無理なる注文なり。
  15. 教官の善悪、書籍の良否等を口にする者は、到底啓発の見込み無し。
  16. 自啓自発せざる者は、教えたりとも実施すること能はず。
  17. 岡目は八目の強味あり。 責任を持つと、大抵の人は八目の弱味を生ず。
    宜く責任の有無に拘はらず、岡目なるを要す。 唯是れ虚心平気なるのみ。
  18. 虚心平気ならんと欲せば、静界動界に修練工夫して、人欲の心雲を払い、無我の妙域に達せざるべからず。 兵術の研究は心気鍛錬に伴ふを要す。
  19. 天上天下唯我君国独尊は軍人の心剣なり。
  20. 進級速かなれば、速やかなる程吾人は早速にて勉強せざるべからず。
    何となれば一定の距離を行くに少き時間を与へられたればなり。
  21. 吾人の今後三十年、其の内十五年は寝て暮らすと思へば、何事を為す遑もなし。
  22. 治に居て乱を忘るべからず。 天下将に乱れんとすと覚悟せよ。
  23. 世界の地図を眺めて日本の小なるを知れ。
  24. 世界を統一するものは大日本帝国なり。
  25. 家康は三河武士の赤誠と忠勤とに依りて天下を得たり。 小大、此理を服膺すべし。
  26. 元亀天正の小天地は、目下世界の全面なり。
  27. 人智の発達と機械の進歩は、江戸長崎の行軍時間を東京倫敦の行軍時間と同一にしたることを忘るべからず。
  28. 三月になると早や寒さを忘れて陽気に浮かるる様の事にては、次の冬の防寒は覚束なし。
  29. 咽元過ぐれば熱さを忘るるは凡俗の劣情なり。
  30. 観じ来れば、吾人は緊褌一番せざるべからず。

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帰国編

白砂糖というものは黒砂糖からつくられる

黒砂糖から不純物を除くと白砂糖になります。白砂糖と黒砂糖は実は同じなのです。

3年間の海外生活で体調を悪くし入院生活を送ることになった真之は、この機会に軍学について考えてみた。その中で瀬戸内の水軍戦法に興味を示した彼は、三期先輩である大名家出身の小笠原長生少佐にお願いし「能島流海賊戦法」という古い戦術書を読む機会を得た。

和綴じの古い書物を丹念に読んでいると、同僚の海軍士官は、「そんな古ぼけた本を読んでいるのか」といって真之を笑った。そんな同僚に「白砂糖は黒砂糖から作られる」と言って反論する。一見新しく見えても実は古いものから作られている。古い水軍の戦術が、真之によって今より「白砂糖(日本海軍)」に変わろうとする瞬間であった。

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晩年

あの地獄の光景は私に武人としての人生の悲惨を感じせしめ、
私をして 「弓矢を捨てよう」という言葉を繰り返させた

秋山真之は亡くなる直前の50歳のとき、回想録でこう述べています。

日本海海戦において、バルチック艦隊撃滅のために七段構えの作戦計画を立て、海戦の間中、「三笠」の艦橋に東郷長官やその他の幕僚と一緒に立っていた秋山真之でしたが、その真底は、武人とはいえなかったのかもしれません。

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